ペルチェ素子(TEC: Thermoelectric Cooler)は、ソリッドステートの熱ポンプです。内部に可動部はありません。微小な半導体接合を多数配線した平板セラミックで、DC電流を流すと片面が吸熱し、もう片面が放熱します。電流方向で熱移動方向が変わるため、精密加熱器や可逆加熱冷却素子としても使われます。
Applied Thermoelectric Solutionsの説明は実用的です。ペルチェ素子は「冷気を作る」のではなく、熱が自然に流れる向きに逆らって片側から反対側へ熱を移します。必要なエネルギーは電気入力です。コールド側が冷えるのは、熱が素子内部を通ってホット側へ実際に運ばれるから。ホット側がより熱くなるのは、その熱に加えて電気仕事の廃熱も受け取るからです。
トロント大学物理学科の熱電冷却FAQには有用な試算があります。20°C室内で箱内部を3°Cに保ちつつ25 Wを汲み出す場合、コールド側は約0°C、ホット側は外気より約10°C高い約30°C、素子の電力は約42 W。するとホット側ヒートシンクは約67 W(25 Wの移送熱 + 42 Wの電気廃熱)を捨てる必要があります。この例の要点は、コールド側が室温より17°C低いことです。これはシミュレーションではなく、適切なホット側放熱系と組み合わせた実機ペルチェ素子の挙動です。
スマホとノートPCで重要な理由
スマホSoCの連続ゲーム負荷は概ね5–10 W。ゲーミングノートPCのCPU+GPUパッケージ全負荷は100+ Wで、だからこそノートPC向けペルチェクーラーは大型ホット側ファンや水冷ループを併用します。問題の形は同じです。現代のスマホ/ノートPC冷却で律速になりやすいのは、筐体外面から周囲空気への最後の段です。通常ファンクーラーはこの最後の段を室温上限の中で少し速めるだけ。ペルチェクーラーは室温より低い面を筐体に当ててその上限を超え、温度勾配を大きくし、端末から熱をより速く引き抜きます。
コールド側よりホット側に予算が要る理由
ここを安価なペルチェ製品は無視し、本当に効く製品はここにコストをかけます。素子は端末の熱と自分の電気廃熱を両方ホット側へ送るため、ホット側ヒートシンクはコールド側吸熱量よりずっと大きい熱を捨てる必要があります。追いつかなければホット側温度が上がり、素子の温度差が縮み、コールド側も温まり、冷蔵庫に払ったのにぬるい保温板を買った結果になります。
だからKryoZonのSシリーズはホット側を水冷化しています(S6は1300 mLリザーバー、S9は30 dB未満の静音ポンプ)。またH7は27W TECの上に独立制御8ファンを置き、小型単ファンにしません。これはアップセルではなく、コールド側性能を実際にスマホまで届けるための設計です。
ペルチェクーラーがファンパッドのように静かではいられない理由
ファン専用パッドが捨てるのはノートPCの熱だけ。ペルチェパッドはノートPC熱 + ポンプ電力の廃熱を捨てる必要があります。同条件なら、より大風量・水搬送、または両方が必要です。高出力ペルチェで無騒音をうたう製品は、デューティ比が極小か、ホット側放熱が不足しているかのどちらかです。KryoZonの現実的な折衷は、S6(ファンゼロ、水冷のみ)とS9(ブロワー空冷でなく小型ポンプ水冷のため30 dB未満)です。
ここがクーラー市場を二分する境界線です。 ペルチェ素子 + 適切なホット側放熱系がある製品は、室温以下に到達し、どんなファンより速く熱を引き抜けます。ペルチェ素子があってもホット側ファンが小さすぎれば、仕様書通りに出ません。ペルチェ素子がなければ、永遠に室温上限です。購入時に最優先で見るべき一文です。